「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第21話

第20話へ戻る


野盗収監編
<尋問と真相>


 ボウドアの村から出発して1時間ほど。草原を進んでいるとは言え高低差が無いわけではないので、これだけ離れれば丘のようなものにさえぎられて村は見えなくなっていた

 私は馬車の後ろ窓から外の景色を眺め、距離が離れてもう完全に村からはこちらの様子を窺う事ができないのを再度確認してから

 「ギャリソン、野盗の皆さんも疲れ始める頃でしょうからそろそろ休憩を取りましょう」
 「はい、アルフィン様」

 と御者台に座っているギャリソンに指示を出す

 すると大きな馬車はゆっくりと減速をはじめ、やがて一つの軋みも出さず静かに止まった。それを確認すると、ギャリソンの横に座っていたサチコがすばやく降りて馬車の後ろにあるトランクからステップを取り出し、入り口に置いて扉の横に姿勢を正して立つ。そのタイミングで中に居た二人のメイドが扉を開けて外に出て休憩の準備をはじめ、最後にサチコが扉下の蓋を内側に向かって開けて固定し、その中にリールに巻かれて収納されていた赤いカーペットを引き出してステップにかけ、恭しく頭を下げた

 そしてそのすべてが終わったのを確認してから私とシャイナ、まるんは馬車をゆっくりと優雅に見えるよう気をつけながら降りる

 ちょっと仰々しい気もするけど、馬車から降りる時はこのようにしてくださいとギャリソンに言われているんだよね。身内だけならともかく、人目がある時は特に気をつけて徹底してくださいとの事だけど

 「(いつかボロが出る気がする)」

 冒険者のロールプレイならともかく、王族のロールプレイなんて続けられるのかなぁ? そんな事を考えながら馬車の少し後ろに進み、メイドたちがセッティングしてくれた丸テーブルと椅子のセットに腰掛けた

 馬車のすぐ後ろをアイアンホース・ゴーレムに乗って付いてきていたセルニアに(因みにシャイナが乗っていたアイアンホース・ゴーレムはヨウコが乗って一行の一番後ろから野盗たちに目を光らせている)野盗たちにも休むように指示をするよう言いつけてから、やっとメイドたちの入れてくれたお茶を一口飲んでほっと一息

 なるべく快適にすごせるように作られているとは言え、乗った事の無い馬車での移動は思いの他ストレスだったみたいで、シャイナたちも心なしか緩んだ感じの表情になっている気がする

 しばらくはそのままゆったりとお茶を飲みながら、たわいもない話をしていたのだけど

 「ねぇアルフィン、流石に1時間歩いたくらいじゃ休む必要ないんじゃない?」
 「私もそう思うよ。野盗をやるような人たちはある程度鍛えているだろうから、これくらいじゃあ疲れないんじゃない?」

 シャイナとまるんがそれぞれこんな事を言い出した

 「でもねぇ」

 確かに私もそう思わないでもないけど、彼らも自らの意思で旅をしているのではなく、手を縛られて強制的に護送されているの今の状況では普段と違って慣れるまでは遥かに早く疲れるだろうから、流石に休ませないと可愛そうじゃないかしら? それにこのまま最後まで歩いて城まで行くわけでもないし、この辺りで休むのはタイミング的に見てもいいんじゃないかな?

 そんな事を話していたら、セルニアが帰ってきて私たちの後ろに控えていたギャリソンの横に着いた。立場的にはその立ち位置が正しいのだけれど

 「見栄えと言う点で言えば、セルニアよりヨウコか今給仕をしているサチコが並んだ方が、絵になるよねぇ」

 ついそんな事を考えてしまい、少し笑いをこらえながら

 「あっそうそう」

 さも今思いついたかのような振りをして馬車のすぐ後ろを一人、仲間たちから少し離されて歩かされていた野盗のリーダーに当初の予定通り、話を切り出した

 「え〜っと、野盗のリーダーの・・・確かポルティモさんだっけ?」
 「なんだ?」

 私の問い掛けに、座ったまま顔だけこちらに向けてそっけなく答える野盗のリーダー。う〜ん、反抗的だなぁ。まぁ、当たり前と言えば当たり前だけどね。そんな予想通りのリーダーの態度など、どこ吹く風とばかりに唐突に切り出してみる

 「あなたたちのアジトってどこ?」
 「言うわけがないだろ!」
 「え〜どうして? いいじゃない、言っちゃえば」

 私のあまりの軽さに驚くポルティモさん(と、私の言葉遣いに顔をしかめるギャリソン。こちらにはあらかじめ、こう言う態度を取ると話してあったんだけどなぁ)だけど、当然即答で断ってきた。それはそうだろうね、アジトと言えば今まで奪った物やそこに残った仲間がいる。そしてその場所が解れば私たちが襲撃してそのすべてを捕らえ、奪ってしまうのは火を見るより明らかなのだから

 「・・・・」
 「う〜ん、やっぱり黙秘するかぁ」

 ここでとりあえず困った顔をして見せるのだけど、ここまでは想定内。とりあえず最初から決めていた台詞をポルティモさんに言い放つ

 「仕方ないね。普通なら弁護士をつけるとか黙秘権とかが与えられるのだろうけど、私としてはアジトに残った残党がボウドアの村を襲ってもらっても困るから、素直にしゃべってくれないのなら魔法でしゃべらせるしかないよね」
 「くっ!」

 この展開は流石にポルティモさんにも解っていたらしく、今からかけられるであろうチャームの魔法に抵抗しようと身構えてしまった。でもねぇ

 「とりあえず抵抗できるかどうか、かけてみるね」

 そう言うとちゃんとボルティモさんに解り易く、抵抗し易いよう目の前で詠唱を始める

 「<チャームパーソン/人間種魅了>」

 なんとしても抵抗して見せるとがんばっていたボルティモさん、その表情が魔法を唱え終わって効果を発揮した瞬間に激変した。魔法がちゃんと効いたからだろうけど、険しかった表情が途端に笑顔になり、古くからの親友を見るかのような目で私を見つめだしたんだよね

 「ボルティモさん、気分はどう?」
 「なぜか縛られているみたいだけど特に問題ないぜ。それとボルティモさんなんて他人行儀な呼び方はやめろよ。お前と俺の仲なんだからファーストネームのエルシモって読んでくれ」
 「ありがとう。これからはそう呼ばせてもらうね、エルシモさん」

 そう言ってにっこり笑うとすぐにチャームの呪文を解呪した

 「エルシモさん、気分はどう?」
 「なっ、なんだと・・・」

 驚いてる、驚いてる。それはそうだろうね、耐えようと身構えていたにもかかわらず何の抵抗もできなかったんだから

 私の方からするとレベル的に当たり前の話なんだけど、こんな経験はした事が無いんじゃないかな? 戦闘中に魅了されると言う事は即、死を意味するから特にチャーム系の魔法には耐えられるよう訓練していただろうからね

 「解ってもらえただろうけど、抵抗は無駄だと思うよ。そこでもう一度提案するけど、アジトの位置、教えてもらえない? チャームで聞き出すとそちらの意見が聞けないし、私たちの必要な事しか聞けないからもしかしたらお互いにとって不都合が起きるかもしれないからね」

 彼らは犯罪者ではあるけど、人権を失ったわけではないから本来はこんな脅しのような尋問はすべきではないと思う。でも、彼らが帰ってこなければアジトに残った残党がボウドアの村に助けに来るかもしれないから、どうしてもその前につぶさないといけないんだよね

 「それに、もし家族とかが居たりしたらやはり怪我とかさせたくないじゃない。でもチャームで場所を聞き出したら、突入して鎮圧なんて事をしなくてはならなくなると思うのよ。私としてはそう言うのはあまりしたくないんだよね」
 「・・・・・」

 正直これが私の本音。ゲームや物語と違って現実の野盗は普段の生活があるのだから家族も居るんじゃないかな? もしそうなら彼らが死んでいないと言う事だけでも伝えなくてはいけない。知らなければ復讐心が芽生えてまたボウドアの村を襲い、今度こそ誰かが死ぬような悲劇が起こるだろうから

 もし恨みを持つとしても、それはボウドアの村に向けられるのではなく私たちに向けられるようにするべきだ。それに私たちならどうとでも対処できるからね
 
 「やっぱりチャームで聞き出さないと話してくれないかな? あっ先に言っておくけど、しゃべらせないように自殺しようとしても無駄だよ。即死でなければ回復させるからね」
 「ぐっ!」

 武器も無く、縛られている今の状況ではせいぜい舌を噛み切るくらいしかできないけど、それで即死は無理。そもそも即死する方法なんて、魔法を使うか首を一撃で落とすくらいしか無いからね

 治癒の呪文があるこの世界では、たとえ胴を両断されてもすぐに回復呪文をかければ治ってしまうんじゃないかなぁ? いや、もしかしたら首を落とされても、それをしたのがシャイナくらい腕の立つ戦士なら斬られた事を本人が気付かずにいて、その状態の時に高位の回復魔法をかけたら首から体が生えて来て直ってしまうかも?

 まぁそれは冗談だとして、正直今エルシモさんが選べる道は、ちゃんと自分の言葉で話すか操られて話すかの2択だけ。そんなつらい状況に追い込まれて苦悩の表情をしばらく浮かべた後、エルシモさんはやっと重い口を開いた

 「家族の安全は保障してもらえるんだな」
 「ええ、もちろん。罪を犯したのはあなたたちで家族は関係ないからね。あっでも、他の村から奪ったものの一部は接収するよ。全部接収すると家族も困るだろうからしばらく生活できる程度は残すけど」
 「ふん、生活する金がなくなったから村を襲ったんだ。接収するもんなんかねぇよ」

 と、ここで驚くべき事実がエルシモさんから告げられた
 彼らがなぜ野盗なんかやっていたかと言う話なんだけど・・・

 「えぇ〜〜〜〜! まさか絶対にありえないと思った三つ目の可能性が正解だったの!?」
 「わっ!? ちょっとシャイナ、いきなり叫ばないでよ」
 「これはびっくり! シャイナの少女マンガ脳から出た妄想が真実とはね」

 エルシモさんからもたらされた情報を聞いて、シャイナとまるんがいきなり大はしゃぎしだした
 かく言う私もこれには驚いたのだけど、エルシモさんたちはもともとは冒険者だったんだけど、国の方針が変わって仕事にあぶれてしまったから仕方なく犯罪に手を染めたんだって

 「う〜ん、普通なら信じられない話だけどシャイナたちの話を聞くとなぁ」
 「そういう事なら村人を誰も殺さなかったと言うのも納得が行くよね」
 「色々考えたもんね。殺さなければ罪が軽くなるからじゃないかとか」

 まるんから聞いた村人による「野盗を殺さないのか?」と言う発言からすると、彼らが誰も殺さなかった理由が今一歩解らなかったのよねぇ。でも、もともとが野盗なんてしたくないと言うのなら話が解らないわけでもない
 根っからの悪人でもなければいくら自分が生きていくためとは言え、何の罪もない人を殺してまで物を奪いたくは無いだろうから

 「でも、なら余計に家族に知らせないといけないじゃない。このまま帰らなければ捕まって殺されたと思われるわよ」

 せめて彼らがどうなったかだけでも知らせてあげないと、待つこともあきらめる事もできないじゃない

 「しかし、家族の居場所を話すなんて事を俺一人で決めるわけには行かない。仲間たちと話させて貰えないだろうか?」
 「でも反対意見の人が出たとしても、私としてはあなたの話が本当かどうか見極めないといけないから、話さないと言う方向に行ったら魔法で聞き出すことになるよ」
 「解った、話すではなく俺に説得させてくれ」
 「それならいいわ」

 正直、彼の言っている事が本当かどうかは解らない
 嘘を伝えて本当のアジトを隠そうとしているのかもしれないけど、それでも今までのシャイナたちの報告からするとありえる話でもあるんだよね

 どの道、この人たちはこれから何年か収容所に入ってもらうことになるのだから家族が居る人、特に子供が居る人にはちゃんと親が生きていることを伝えるべきだと思う。たとえ加害者の身内であったとしても、何も知らされず家族が帰るかどうか解らない状況に追い込まれると言うのは流石に間違っているし、そんなのは可哀想すぎる

 この世界ではどうかは知らないけど、私の考えではやはりちゃんと伝えるべきだと、そうしないといけないんだと思うんだよね



 「お前たち、聞いてくれ」

 野盗たちのところまでエルシモさんを連れて行くと、彼は仲間たちを説得するように話し始めた

 私が強力なチャームを使える事、しかし、そのチャームを使わずにアジトの事を話すように理由を説明して自分を説得をした事、村でのシャイナやまるんの行動(シャイナの行動の所で少し話が詰まった気がするのはご愛嬌かな?)、そしてもし自主的に話さなければ自分たちに不利な状況で家族の情報が私たちに伝わるという所まで隠さず話して仲間たちを説得して行った

 「う〜ん、リーダーだなぁ、あるさんとは大違いだ」
 「これを聞いていると、アルフィンはもう少しちゃんとした方がいいと思わされるね」

 なんか隣で不敬な事を言われているけど、私自身そう思うから怒ることもできない。なのでじっとエルシモさんの言葉を聞きながら野盗たちの判断を待つ

 で、結果なんだけど

 「アジトに使っている廃屋の場所を教える事の同意を、全員から取る事ができた。だが、本当に家族には手を出さないんだな?」
 「当然でしょ。それに家族がいるなら子供もいるんでしょ。そんな所に手を出したら・・・」
 「ははは、そこの怖いお姉さんが切れるか」

 ここでやっとエルシモさんの顔に笑みが浮かんだ
 自分たちは捕まってしまったが、殺される事も無くどこかの収容施設につれて行かれるだけだし、家族に生きている事を伝えてもらうのは彼らからしても本来なら願っても無いことだろうからね

 「さて、話がまとまったのなら早速行動だね。まるん、馬車のトランクに遠隔視の鏡が積んであるから持って来て・・・あ、ダメか、私では使い方がよく解らないからギャリソンもつれてきて」
 「うん、了解」
 「それとシャイナ、店長とサチコを連れて来て。私が行ってもいいけど、多分ギャリソンが許してくれないから場所が解ったら変わりにあの二人に行ってもらわないといけないからね」
 「わかったよ」

 こうしてエルシモさんに廃屋の正確な位置を聞き、ギャリソンに遠隔視の鏡を操作してもらってその場所を映し出させた後

 「セルニア、サチコ、大体の事は解っているわね。ちゃんとエルシモさんたちはしばらく帰って来られないけど生きていると言う事は伝えてね。あと後日ちゃんとした説明にもう一度窺うというのも忘れないように」
 「はい、解りました! 任せてください」

 場所を確認したセルニアがゲートを開き、二人は黒い穴に消えていった

 そしてその場には

 「なっなんだ、今のは!?」

 <ゲート/転移門>の魔法を知らないのか、目を白黒させたエルシモさんと

 「しばらくしたら自分たちもこのゲートをくぐるんだけどなぁ。こんなんで大丈夫だろうか?」

 なんて考えてくすくす笑っている私たちが残された

 

あとがきのような、言い訳のようなもの


 野盗が村人を殺さない理由の答えあわせ回です
 真実を知れば驚くのは当たり前の話ですよね。それをもしかしたらなんて思いつくシャイナがおかしいのです

 今回の話ですが、なんかファンタジーとしては色々とおかしな回ですが、主人公は普通の世界の人なのでこんな反応をします。面倒ですよねw
 でも現実問題、犯罪者にも家族は居るというのは当たり前で、自分がその犯罪者をさばく立場になったらこう考えるんじゃないかなぁと言う回でした

 さて実はこの話、最初の想定ではこの話の2話(もしかしたら3話かも)ほど後に持ってくるつもりだったんですよ。その方が話の展開としては自然なのですが、なんか後で思いついてあわてて書いたと思われそうなのでこんな所に持ってきました
 おかげでちょっと無理がありそうな展開になってしまったなぁ

 あと、ゲートの魔法ですが、ずっと後に異界門に直すかも
 流石にそこまでこのSSを続けることは無いだろうと思って転移門にしたけど、もし想定している所まで続くようなことがあったらこの名前ではおかしくなってしまうので

第22話へ

オーバーロード目次へ